ドドゴゴノート

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ブルックナー:交響曲第5番

ブルックナー交響曲第5番
大阪フィルハーモニー管弦楽団
指揮:朝比奈隆
録音:1994年

 

 

硬派のブルックナー交響曲の中でも、最も男性的、最も立体的、最も分厚く、最も厳しい作品で、とくに第1、第3、第4楽章にそれが際立っており、その点では9番をも凌ぐかもしれません。
まさに天に登える大伽藍にもたとえられるべき傑作であり、これでアダージョが7番以降のシンフォニーの域に達していれば、ブルックナーの最高傑作と言われていたんじゃないでしょうか。

 
第1楽章

ゆるやかな導入部を伴った唯一の交響曲です。

低弦のピッチカート、弦による惣重なポリフォニ一、金管のコラールが印象的です。

主部はアレグロに変わり、高弦のトレモロに伴奏されて、力強く素朴な第1主題がヴィオラとチェロで歌われます。
このテーマは6番のスケルツォ中間部でも用いられていますが、おそらくオーストリアの民謡から採られたものではないかといわれています。
マーラ一の2番の第3楽章に登場する主題が同じ民謡なんじゃないかと。
このテーマはやがてフォルティッシモで反復されるが、ゼクエンツによる転調は厳しくも透明なオーケストレーションとともに、ブルックナーを聴く醍醐味といえます。
目もくらむような改変が快い法悦となり、魂が別世界に誘われてしまいます。
それはときには宇宙の鳴動を思わせ、壮絶のかぎりをつくします。

演奏については第1楽章の流れはいささか硬いように感じます。
大阪フィルという暴れ馬を懸命に御してはいますが、指揮者もオケも演奏スタイルの方向がまだ定まらず、アンサンブルのタテの線が合わなかったり、ダイナミックスの変化がスムーズでない部分も多いようにも感じられます。


第2楽章

第1部は、三連音による6拍子的な弦のピッチカートを背景として、木管が4拍子風のちの悲しい歌をうたい、第2部は弦楽合奏が深い長調のひびきて祈りの感情を伝え、高弦が果てしない憧れの念をほとばしらせます。
以上が変型しながらABA'B'A"の5部形状を形成します。

演奏は、第2楽章のアダージョに入るや一変します。
オーボエファゴットが吹く第1主題から、音色も吹き方も聴く者の心にしみてきます。
31小節からの第2主題も同じで、その訴えは美しく、第1主題による第3部、第5部のオルガンのようにとけ合ったひびきや、おごそかな祈りや、ブルックナーならではの蔵言はこのコンビならではといえます。


第3楽章

テンポが頻繁に交代するブルックナーとしても特異なスケルツォですが、ひびきと内容は彼以外の何者でもありません。
第1主題の伴奏音型はアダージョ冒頭のピッチカート音型がそのまま使われており、第2主題は前よりもかなりいゆるやかにと指定された素朴な舞曲で、フォルティッシモに盛り上がると魂の祭典にまで高められます。

第2部冒頭のピッチカートを背景とする木管の訴え、トリオの牧歌的なホルン、すばらしい転調、ブルックナーならではの意味深いハーモニーや音色感など、一節一節が彼の音楽を聴くよろこびにあふれています。

演奏では、つづく第3楽章のスケルツォは完璧に御された暴れ馬です。
大人しい馬を燃え立たせるのとは違って、ここには根源的な迫力があり、それが5番のスケルツォにぴったりです。
楽器の彫り深い抉りは生々しく、307小節以後のフォルティッシモの圧迫感は言語に絶します。

それにしても最高というべきはトリオです。
とくに第2部のCからの美しさは例を見ないほどで、弦もホルン二重奏も理想的で、それ以後、プルックナーの天才の筆の冴えによって音の景色が刻々と変化してゆく場面の魅力や、Eから突然の心の奥底にひびくトロンボーン有機的な最強音など、これ以上意味深い演奏はは決して望めないでしょう。


第4楽章

アダージョの導入部は第1楽章の質とそっくりに開始され、クラリネットがフィナーレの第1主題をほのめかします。
つぎに第1楽章の主題が回想されてふたたびフィナーレの主題にさえぎられ、アダージョのテーマも思い出されるが、すぐに中断されます。

主部に入ると、チェロとバスが確固たる第1主題を出し、フーガが堂々と進められていきますが、つづいて全管が新しいコラール:主題を提示します。
展開はこのコラールによるフーガとなり、やがて二つのテーマがからんで二重対位法が高らかに壮麗に進行します。
途中から第1楽章の第1主題も加わり、音楽はコーダに向って漸増し、ブルックナーとしても珍しいほどの長い、演奏効果に富んだ力強いクライマックスの中に終りを告げます。
フーガの使用こそ5番シンフォニーにとって決定的なことであり、神の全能を讃える圧倒的な勝利がここに実現されたのです。

最後の第4楽章の演奏はこの尻上りの5番の総決算であり、集大成です。
83小節で弦がみずみずしく歌うあたりからはオーケストラも乗りに乗り、第1楽章と同じ団体とは思えないほど音楽がよく流れ、練れた、熱したページがどんどん増えてゆくのにびっくりさせられます。
何よりもすごいのは指揮者がスコアのすみずみまで自分のものにしている結果、この複雑を極めたフーガ各声部の見通しが良いことで、聴いている方でも音楽が手に取るように分る。
そしてついにコーダの、少しもうるさくならない最高の壮麗壮大なクライマックスが圧倒させてくれます。