ドドゴゴノート

好きなクラシックの感想です

モーツァルト:交響曲第40番、41番

 


モーツァルト
交響曲第40番

交響曲第41番
パリ・オペラ座管弦楽団
指揮:カール・シューリヒト

 

 

モーツァルト=交響曲第40番ト短調 KV550


第39番を1788年6月26日に完成したモーツ ァルトは、つづいて、第40番を7月25日に完成しました。
ジュピターも含め、作曲の動機や初演については不明ですが、その暗い抒情と悲痛なまでの憧れとデモーニッシュな激情とが、モーツァルト独特の昇華された純粋さの中に流れるは見事の一語に尽きます。


第1楽章

モルトアレグロ ト短調ソナタ形式
まずヴィオラのさざ波の上に第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンがオクターヴで哀愁に満ちた不滅の第1主題を歌います。
変ロ長調の第2主題はため息のように下降し、モーツァルト独特の半音階がいかにもわびしいです。
展開部は木管の病的な橋渡しを経て嬰へ短調に変り、第1テーマがさまざまな調を返歴しつつ密度の濃い展開をつづけてゆきます。
それはモーツァルトの魂の異常な葛藤であり、激情の爆発です。
木管が半音下降を始めると、ほのかに第1主題が再現されますが、途中からホルンの持続音も加わるので主題の頭は見定め難いです。
木管の半音下降は魅惑のかぎりを尽くし、崩壊寸前の不健康な味を秘めつつも、それがあらわにならず、聴く者の注意をそらせながら第1主題の再現がしのび寄るように行われます。
そして1小節後にやっとパスがト短調の根音を弾き、ヴィオラのさざ波も参加して安定するのですが、スコアだけ眺めていても胸が苦しくなるようです。

 

第2楽章

アンダンテ変ホ長調 ソナタ形式
長調ではありますが、第1が楽章以上に寂寥を感じさせるテーマが、ヴィオラ、第2ヴァイオリン、第1ヴァイオリンと受け渡されて、あたかも対位法のように積み重ねられてゆきます。
さながら冬の荒野を一人とぼとぼと歩くモーツァルトの足どりを思わせます。
音楽は孤独に進められ、やがて天使のすすり泣きのような第2主題が現われますが、それは完全に昇華され切っているために、この楽章におけるほとんど唯一の微笑みの部分となっています。
そして展開部は精神の闘いの場と変るのです。

 

第3楽章

メヌエット・アレグレットト短調 三部形式
古典舞曲のメヌエットでかくも偉大な音楽はまたとなく、壮麗な大建築物を仰ぎ見るようです。
切分音を伴ったリズムの硬さ、対位法を駆使した音の積み上げ方から、このようなギリシャ建築のような立派さと威容が生まれたわけですが、メヌエット全体に、高められた、神のようなパトスと悲哀感がみなぎっています。

 

第4楽章

アレグロ・アッサイト短調 ソナタ形式
古典形式をきっちりと守った激情の嵐で、その主部は絶えず優雅さと品位を保って踏みはずすことがありません。
強弱の対比によって鮮明な性格をあたえられている第1主題は、しかし純音楽的な美しさにおいても際立った名作であり、第2主題はいかにも柔かく滑らかな変ロ長調の歌です。
再現部で主調に戻されるこの旋律は恍惚たる木管の音色を伴って、モーツァルトの微笑と涙をすばらしく表現しています。
そして展開部では対位法の目ざましい活躍と緊張力みなぎる異常な転調で、聴く者の耳と心を徹底的に痛めつけずにはおかないのです。

 


モーツァルト=交響曲 第41番ハ長調 《ジュピター) KV551

1788年8月10日に完成されたモーツァルトの最後の交響曲で、ギリシャ神話の中のジュピター神の名で広く親しまれている壮麗な傑作です。

 

第1楽章

アレグロ・ヴィヴァーチェ ハ長調 ソナタ形式

ハイドン以来の古典ソナタ形式が、これほどの壮麗な威容と調和の美を兼ね備えた例は決してないでしょう。
第1主題はジュピターの足どりのように堂々としており、第2主題は天才の冴えた筆によ る優美の極です。
そして小結尾には胸をはずませるような三つ目の主題が現われるのです。

 

第2楽章

 アンダンテ・カンタービレ へ長調 ソナタ形式
ふくよかで豊かな歌にあふれた緩徐楽章です。
明るさの中にものうい情感を秘めた第1主題、そして平和な第2主題、それは後半、第1ヴァイオリンがあらわと濡れた転調から吹くようなコロラトゥラで身体を飾ります。
モーツァルトの書いた最もチャ ーミングなアンダンテの一つといわれています。

 

第3楽章

メヌエットアレグレットハ長調 三部形式

ロディックに始まる舞曲で、心をかき乱す木管の半音下降パッセージを含みますが、拡がりは大変大きいです。
トリオは問と答が巧みに使われた愉しい部分です。

 

第4楽章

 フィナーレモルトアレグロ ハ長調 フーガを導入したソナタ形式
ハイドン以来、交響曲の第4楽章は型にはまった軽いものが多く、それは前作の、第40番においても例外ではありませんでした。
ソナタ形式を用い、あれほど内容の濃い展開部を持っていてさえ、第1、第2の両楽章を受けとめるには形が小さすぎたのです。
そこでモーツァルトは彼の最後の交響曲においてフーガを導入し、かくも広々とした世界を創造、第1、第2楽章の抜群のソナタ形式をしっかりと支えてなお余りある堂々たるフィナーレを築き上げたのでした。
まさに奇蹟のような名作です。