ドドゴゴノート

好きなクラシックの感想です

ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第21・23番

 

 

ベートーヴェン

ピアノ・ソナタ第21番 ハ長調 作品53「ワルトシュタイン」

ピアノ・ソナタ第23番ヘ短調作品57「熱情」

タチアナ・ニコラーエワ(ピアノ)
録音:1993年8月トゥーン近郊ブルーメンシュタイン

 

 

 

演奏は、 もとより、バッハと同じように素晴しいです。
どこまでも格調たかく、しかも微妙な心の息づきに満たされた演奏ぶりであす。
ワルトシュタイン第1楽章を聴きながら、着心地のよい着物のような演奏、あるいはいかにも着心地よく着物を着こなした人のような演奏だとかんじました。
すなわち、全体にゆったりと余裕を漂わせながら、締めるべきところはキリリと引き締めて、造型の美しい演奏なのです。
熱情のほうは、たとえば若き日のリヒテルのような、鬼神となって立ちまわる昂奮からは一見離れているものの、落着いた足どりのうちに刻まれる陰影、こくのようなものが、しだいに深く心を惹きつけ、これもまた得がたい名演奏だと確信させられます。

 

ピアノ・ソナタ第21番ハ長調Op.53「ワルトシュタイン」

ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(1770-1827)が公にした32曲のピアノ・ソナタのうち、「熱情」とともに中期の最高傑作と目されるのが、1803年から04年にかけて作曲され、 05年にウィーンで出版を見たこのハ長調ソナタです。
まず標題について言えば、これはこの曲がワルトシュタイン(ヴアルトシュタイン)という名の伯爵に捧げられたからであって、それ以上の意味は持ってないです。

 

第1楽章

アレグロ・コン・ブリオハ長調
ソナタ形式ですが、従来のソナタ書法からは格段に進み、真に独創的な領域に分け入ったものです。
第1主題はいわゆる旋律主題ではなく、ダイナミックな低音の流れに支えられた、きらびやかで同時に暗示性に富んだ器楽的音型です。
第2主題は常道を破ってホ長調で現れ(再現部ではイ長調で出る)、対照的にゆるやかで甘美な和声の流れによっています。
展開部の充実も素晴らしく、楽章全体を覆う荘麗さと乗りの良さの魅力は比類がありません。


第2楽章くイントロドゥツィオーネ>

アダージョモルトへ長調
導入部すなわち、つづくロンドへの序章として 書かれた短い部分で、本来はこれとロンドを併せてひとつの楽章と考えるべきものらしいです。
ここ自体は3部形式で、神秘的ですらある奥深い楽想を持っています。
2つの明るく躍動的な楽章に挟まれて、すこぶる意味ぶかい静けさの部分です。

 

第3楽章くロンド>

アレグレット・モデラーハ長調 さざ波のような
アルペッジョを高音域に伴って出る優しく晴れやかなロンド主題。
エピソードはイ短調ハ短調の2つが出され、その後、ロンド主題は自ら華やかに展開を重ねます。
ロンド・ソナタ風の作りではない、ロンド形式本来のものの追求がここには見られ、しかもあらたな有機的拡大のさまに、目をみはらされます。

 

ピアノ・ソナタ第23番へ短調Op.57「熱情」


すでに書いたとおり「ワルトシュタイン」 と並びベートーヴェンの中期ピアノ・ソナタ中にそびえ立つこの「アパッシォナータ」は、1804年に書き始められ、05年に完成されたものと推定されています。

 

第1楽章


アレグロ・アッサイ ヘ短調 ソナタ形式
この楽章は弱奏 (PP)に始まり最弱奏(PPP)で閉じられますが、 その間のダイナミックな情熱の昂まり、激しい緊張感は、それ以前のいかなるピアノ曲、いかなるソナタにも見られなかったほどのものです。
ひそやかに始まるだけに、劇的な高揚までいちじるしい振幅をそなえた第1主題、変イ長調に転ずるものの、甘美さや優しさよりは英雄的な意志の力を感じさせる第2主題。随所に「タタタターン」という 例の「運命の動機」が配され、<運命交響曲> (1805-08)の先触れをなしていることも特筆に値します。

 

第2楽章

アンダンテ・コン・モート変 ニ長調
嵐の合間の静けさ いった楽想で、主題と3つの変奏からなっています。
おだやかな主題には「祈り」の要素が感じられます。
末尾はつづく再度の嵐を予感させる減7和音のアルペッジョ、第3楽章へはそこからアタッカで入ります。

 

第3楽章

アレグロ・マ・ノン・トロッポ
短調 ソナタ形式
第1、 第2両主題とも、激しく波立つ胸のうちを吐露したかのような、あわただしい楽想です。
更に、コーダはプレストとなって、いっそ 激しく盛り上げて終わります。